2023.12.02 (Sat)

Lovebites / Judgement Day (2023.02.22)
1. We Are the Resurrection [4:56]
2. Judgement Day [5:53]
3. The Spirit Lives On [5:32]
4. Wicked Witch [5:34]
5. Stand and Deliver (Shoot 'em Down) [5:10]
6. Victim of Time [5:22]
7. My Orion [4:35]
8. Lost in the Garden [6:08]
9. Dissonance [4:58]
10. Soldier Stands Solitarily [5:22]
total 53:24
Asami (vo)
Midori (g)
Miyako (g, key)
Fami (b)
Haruna (dr)
日本の女性5人組メタルバンド、Lovebitesが2023年にリリースした4thアルバムです。ベースが交代しています。
一言で言うなら、過去最高レベルで勢いのあるアルバムです。今までもスラッシュ寄りの疾走曲というのは1~2曲入ってたものですが、その比率が格段に上がっており、ほぼ全曲走りまくりの攻めすぎてるアルバムです。前作リリース後、ベースのMihoさん脱退により活動休止期間もあったこのバンド。ベースのMihoさんといえばバンドの創設メンバーでもあります。結束バンドで言うなら虹夏ちゃんが脱退するようなものです。大ピンチです。でもバンドは新たなベース奏者を迎え入れその危機を乗り越え、復活の咆哮を高らかに響かせたのでした。
以前は正統派メタルの守護神なんて形容もされてましたが、本作はそんな生易しいもんじゃありません。5人の女狼(めろう)が武器を手に薩摩剣士よろしく突撃してくる、メタル界の切り込み隊と言っても過言ではない鋭さ。10曲すべてが疾走曲かアップテンポ曲。ミドルやバラードなんてものはありません。野獣のような荒々しさと優美でドラマティックな感性が結合。全編リードトラックと言えるほどの充実度です。
#1 "We Are the Resurrection" は勇壮なファンファーレのようなイントロで劇的に幕を開け、重心低く疾走。悲鳴を上げるギターもかっこいい。伸びやかかつ哀愁に満ちたサビのフレーズも強烈ですし、ツインギターによるソロパートもドラマティックでいいですね。
#2 "Judgement Day" はシンフォニック要素の濃いゴージャスなイントロから、そのフレーズを引き継ぐようにヴォーカルパートへ。ドスを聴かせた低音域の歌声も迫力がありますし、そこからサビに向けて駆け上がっていく様もドラマティックです。アクセント的に中東風の音階が使われており、それも効果的なスパイスになっています。
#3 "The Spirit Lives On" は開始0秒から劇的ツインリードと疾走感が炸裂する王道のジャパメタナンバー。サビの飛翔感がいいですね。音数の多さにかかわらず完璧にユニゾンしてハモってるギターも凄い。
#4 "Wicked Witch" はギャロップのリズムで進行するアップテンポナンバー。80年代からよくあるスタイルで、メインのフレーズやリズムの感じがIron Maidenぽいですが、日本のメタルバンドらしい哀愁やキャッチーさもあります。
#5 "Stand and Deliver (Shoot 'em Down)" は本作の目玉曲と言える疾走チューン。かっこいいベースソロで幕を開け、キレのいい女郎コーラスによるヴォーカルパート。メタル的な緻密さ・正確さと、野性味のある勢いが融合しており、キラーチューンばかりの本作においてさらに抜きんでたインパクトがあります。
#6 "Victim of Time" はイントロから流麗なツインギターが彩る疾走曲。北欧メタルにも通じる憂いを帯びた歌いだしから、サビ部分に駆け上がる流れがいいですね。少々湿っぽい曲ですが、派手でテクニカルなソロパートが熱い。ラストもクラシックのフィナーレのような劇的さです。
#7 "My Orion" は80年代的雰囲気のあるアップテンポ曲。昭和40年代生まれメタラーが懐かしさのあまり泣いて喜びそうな曲調です。ハードな曲ばかりの本作の中で4曲目と並ぶキャッチーさがあり、比較的リラックスして聴けるのでは。
#8 "Lost in the Garden" はツーバス連打の勇壮なアップテンポ曲。ドスの効いた低音域から徐々に音域を上げていって、サビで一気に開放させるヴォーカルがいいですね。出だし5秒間のテクニカルなフレーズを要所要所に挟み込んでアクセントにしている点や、テクニカルにしてメロディアスなソロパート、終盤の転調など、ドラマ性ではこの曲が本作イチかも。
#9 "Dissonance" はほぼ完全にスラッシュメタルな疾走曲。イントロのトレモロや、インストパートの刻みリフなどこれは燃えますね。緊迫感と邪悪さ、そして鮮やかなフレーズという合わせ技にやられます。
ラストの#10 "Soldier Stands Solitarily" も容赦のない疾走曲。ダークな雰囲気に切り込む鮮やかなメロディ。最後まで攻めの手を緩めない徹底ぶりです。
初期のLovebitesは80年代に青春期を過ごしたおっさんメタラーを対象年齢にしている感がありました。もちろんあれはあれで高いクオリティを持ってたんですが、本作はそんなおっさんメタラーを振り落とさんばかりのアクセル全開の疾走ぶり。「来たい奴だけ付いて来な」と言わんばかりの自信にあふれた作品です。
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2023.11.29 (Wed)

Powerwolf / Interludium (2023.04.07)
1. Wolves of War [3:58]
2. Sainted by the Storm [3:44]
3. No Prayer at Midnight [3:41]
4. My Will Be Done [3:43]
5. Altars on Fire [3:49]
6. Wolfborn [3:14]
7. Stronger than the Sacrament [3:35]
8. Living on a Nightmare [3:52]
9. Midnight Madonna [3:28]
10. Bête du Gévaudan [3:34]
total 36:34
アッティラ・ドーン (vo)
マシュー・グレイウルフ (g)
チャールズ・グレイウルフ (g)
ファルク・マリア・シュレーゲル (key)
ルール・ファン・ヘルデン (dr)
ドイツのパワーメタル灰色狼、Powerwolfが2023年にリリースしたコンピレーションアルバムです。新曲6曲とレア音源4曲で構成された全10曲の作品です。
とはいえ全部で10曲ありますし、収録時間こそ少々短めですが流れもいいし、普通にフルアルバムとしても楽しめます。往年のファンはもちろん、この作品から新規で入るのも全く問題ないと思います。
古い曲では2011年とかのもありますが、音楽性はほぼ変わってないので近年の曲と違和感なく繋がってます。まあさすがにアッティラ氏のヴォーカルは今と比べて若いかなと思いますが。
#1 "Wolves of War" は新曲。ケルト風のイントロから3連符で勇壮に駆け抜けるアップテンポ曲。サビ部分はイントロと同じメロディなんですが、やはり片や民謡調に、片や勇壮で高揚感があり、アレンジセンスの巧みさを感じます。続くソロパートも飛翔感があっていいですね。
#2 "Sainted by the Storm" は2022年のシングル曲。パワフルなミドルチューンで、歯切れのいいヴォーカルフレーズがいいですね。Powerwolfらしい高揚感があります。
#3 "No Prayer at Midnight" も新曲。Powerwolfらしからぬ爽やかさが全体に満ちています。なんでしょう、この明るい感じ。でもこれはこれで、メロディアスでいいですね。
#4 "My Will Be Done" は2022年のシングル曲。3連符の勇壮なアップテンポで、ガツガツと攻め込むような勢いがあります。サビ部分んも、パワフルな中にほのかな哀愁を感じます。
#5 "Altars on Fire" も新曲。フォークメタルの要素もある勇壮なミドルチューンで、サビ直前の一瞬の溜めがいいですね。
#6 "Wolfborn" も新曲。出だしの分厚いコーラスが早速インパクト強いですね。ギャロップのリズムが特徴のミドルチューンで、緊迫感があります。チャーチオルガンも効果的。特に中盤の荘厳なパートは圧巻で、コンパクトな曲ですがドラマ性もたっぷりです。
#7 "Stronger than the Sacrament" は2015年のツアーEP収録曲。「ツアーEP」という言葉は初耳ですが、多分ライヴ会場でしか買えなかった音源とかでは。曲としては荘厳なアップテンポで、明るく突き抜けるような感じ。HelloweenやGamma Rayあたりがやっても違和感なさそうな曲調です。
#8 "Living on a Nightmare" はさらに遡って2011年のツアーEPからの曲。雷鳴で幕を開けハードロック然としたリフが切り込んでくるアップテンポ曲で、80年代的な雰囲気が満載でいいですね。曲調としては現在と大きな違いはありませんが、アッティラ氏のヴォーカルはさすがにちょっと若さを感じます。
#9 "Midnight Madonna" はアルバム「The Sacrament Of Sin」(2018年 7th) の限定盤ボーナストラック。Powerwolfらしい勇壮なミドルチューンですが、よくあるタイプの曲だとも言えます。悪くはないですが。
#10 "Bête du Gévaudan" は前作「Call of the Wild」に収録されていた "Beast Of Gévaudan" のフランス語ヴァージョンです。意外とと違和感ないですね。
新曲から10年以上前の曲まで入ってますが、こうしてまとめて聴いてみると自然な流れ。方向性がぶれないというのは頼もしいですね。変化することで生き残るバンドもいれば、変わらないことで生き残るバンドもいる。このバンドは間違いなく後者の側ですね。
とはいえそのスタイルで新鮮味を維持しつつ、高水準の作品を連発するというのは並大抵のことではありません。それを毎回見事にクリアする彼らこそ、真のエンターティナーといえるでしょう。
2023.11.26 (Sun)

Powerwolf / Call of the Wild (202107.16)
1. Faster than the Flame [4:09]
2. Beast of Gévaudan [3:32]
3. Dancing with the Dead [4:05]
4. Varcolac [3:53]
5. Alive or Undead [4:23]
6. Blood for Blood (Faoladh) [3:11]
7. Glaubenskraft [3:56]
8. Call of the Wild [3:40]
9. Sermon of Swords [3:19]
10. Undress to Confess [3:32]
11. Reverent of Rats [2:55]
total 40:28
アッティラ・ドーン (vo)
マシュー・グレイウルフ (g)
チャールズ・グレイウルフ (g)
ファルク・マリア・シュレーゲル (key)
ルール・ファン・ヘルデン (dr)
ドイツのパワーメタル狼、Powerwolfが2021年にリリースした8thアルバムです。
ミドルテンポを中心としたパワフルにしてキャッチーな楽曲や、宗教的荘厳さを突き詰めたビジュアルなど、メタルの王道感とキワモノ感をうまいこと融合させているバンドです。昨今のメタル界では似たようなスタイルのバンドがそれぞれに差別化を図っていて個性豊かで大変にぎやかな状況になっているのですが、このバンドの凄いところは、このスタイルをブレずに貫き通したうえでアルバム2枚(「Preachers of the Night」(2013年 5th) と前作「The Sacrament of Sin」(2018年 7th))が本国ドイツの音楽チャートで1位を獲得している点です。ちなみに本作も2位まで食い込んでます。
本作もそんな王道にして安定感のある正統派パワーメタル。相変わらずミドルテンポの曲が中心ですが曲それぞれに個性とフックがあり、センスの高さがうかがえます。
#1 "Faster than the Flame" は映画音楽的な出だしから3連符で景気よく疾走するアップテンポ曲。パワフルな中にもシンフォニックな味付け。サビの高揚感も相変わらずさすがです。
#2 "Beast of Gévaudan" でさっそく本作のキラーチューン登場です。わたくしPowerwolfは直近の3枚しか持ってないんですが、その中ではこの曲が一番好き。シンフォニックなアップテンポ曲で、サビどころか曲全体のパワーが凄い。中盤のインストパートが若干Iron Maiden風味なのも面白いですね。
#3 "Dancing with the Dead" はどことなく80年代的なビート感のあるアップテンポ曲で、サビ部分の伸びやかかつパワフルなヴォーカルが良いですね。
#4 "Varcolac" は冒頭から荘厳なコーラスが響き渡るミドルチューン。歌詞はルーマニアの民話が元になっているようで、それもあってか東欧風のメロディが印象的です。厚みのあるシンフォニックアレンジとチャーチオルガンで、キャッチーな中にも重々しさがあります。
#5 "Alive or Undead" は朗々とした歌唱が心にしみるバラード。アッティラ氏の歌声がパワフルかつ暑苦しいので、バラードと言ってもやはり圧が凄いことになっています。終盤のエモーショナルなソロパートも聴きどころ。
#6 "Blood for Blood" はケルト旋律を取り入れた、フォークメタル寄りの曲。バッキングのバグパイプもいい味を出してます。サビでは勇壮な行進曲風になり、フォーキーなソロパートに移行。3分少々の曲ですが高いドラマ性が詰まってます。
#7 "Glaubenskraft" はずっしりと重厚なスローチューンで、大聖堂とかでの演奏が似合いそう。2コーラス目が終わってからのチャーチオルガンのパートが飛翔感とエモーションがあっていいですね。
タイトル曲の#8 "Call of the Wild" はイントロのキャッチーなメロディから早速引き込まれるアップテンポ曲。他の曲に比べて若干明るい要素があるのもいいですね。ドラマティックに構築されたギターソロや、続くシンガロングパートも熱い。
#9 "Sermon of Swords" はシンフォニックなイントロに始まり、男臭さと華やかさを合わせ持つアップテンポナンバー。イントロのシンフォニックなフレーズとサビのヴォーカルフレーズのシンクロをはじめ、リズム面が際立ってます。
#10 "Undress to Confess" はゴシックメタル的な雰囲気もあるシンフォニックなミドルチューン。チャーチオルガンによるリフレインやほぼ全編にわたってる壮麗なコーラス、哀愁に満ちたソロパートなどフックに富んだ曲です。終盤の転調もいいですね。
#11 "Reverent of Rats" は聴き手の精神を最後まで燃焼させるかのような熱のこもったアップテンポ曲。AメロBメロのリズミカルでキレのいいヴォーカルラインと、伸びやかで飛翔感のあるサビとの対比が好き。
終わり方はちょっとあっけなかったですが、安定感のあるハイクオリティな作品です。1曲1曲は短いぶん、展開が早くて無駄がなくドラマ性も濃い。メンバーの技量はもちろん曲作りのセンスやビジュアル面でも魅せ方や売り方が上手いなと思わせます。
2023.11.24 (Fri)

Powerwolf / The Sacrament of Sin (2018.07.20)
1. Fire & Forgive [4:31]
2. Demons Are a Girl's Best Friend [3:38]
3. Killers with the Cross [4:10]
4. Incense and Iron [3:58]
5. Where the Wild Wolves Have Gone [4:14]
6. Stossgebet [3:54]
7. Nightside of Siberia [3:53]
8. The Sacrament of Sin [3:27]
9. Venom of Venus [3:29]
10. Nighttime Rebel [4:04]
11. Fist by Fist (Sacralize or Strike) [3:33]
total 42:41
アッティラ・ドーン (vo)
マシュー・グレイウルフ (g)
チャールズ・グレイウルフ (b, g)
ファルク・マリア・シュレーゲル (key)
ルール・ファン・ヘルデン (dr)
ドイツのパワーメタルメタル群狼、Powerwolfが2018年にリリースした7thアルバムです。
宗教的な衣装に白塗りメイクと、ブラックメタルの亜種かな?と思いそうなビジュアルですが、音楽性はパワフルな正統派メタルです。疾走曲もありますが、どちらかと言えばミドルテンポ主体で荘厳さや勇壮さを演出するスタイル。キャッチーでパワーのある曲が揃ってます。
あとメタルバンドにとって世界観というのも非常に大事な要素ですが、このバンドはキリスト教的な世界観を押し出しています。まずメンバーの衣装からしてそうですし、クワイアやチャーチオルガンを曲に取り入れたり、PVの演出なども徹底しています。1曲3~4分前後で、トータル42分とサクッと聴きとおせるのもいいですね。クリスチャンメタルではないですし、反キリストというのも違う。独自の宗教を作り上げてしまってます。ちなみに本作は本国ドイツの音楽チャートで1位を獲得しており、その人気の高さがうかがえます。
#1 "Fire & Forgive" は3連符の勇壮なアップテンポ曲で、映画音楽的なドラマ性もあり掴みはばっちり。ヴォーカルは腹の底から出ているようなストロングで朗々とした歌唱。暑苦しいパワーを感じます。Bメロの厳かなチャーチオルガンから繋がるサビ部分の爆発力も最高です。
#2 "Demons Are a Girl's Best Friend" はイントロのオルガンから早速熱いミドルチューン。サビ部分の「オーオーオーオオオー」のコーラスもキャッチーで洗脳力が高く、ライヴで盛り上がりそうです。終盤、大サビでの転調もよくあるパターンですが好き。
#3 "Killers with the Cross" はヒロイックでパワーのあるミドルチューン。パワフルな曲調ですが、Bメロ部分にラテン語の厳かなパートを挟むところなど芸が細かいです。
#4 "Incense and Iron" はイントロのフォーキーなメロディが特徴。サビはそのイントロのメロディなんですが、片やフォーキーに、片やパワフルにと同じメロディでも全く印象が違います。これもまた作曲者のセンスの成せる業でしょう。
#5 "Where the Wild Wolves Have Gone" はパワーバラードと呼ぶにはあまりにもパワーのありすぎる熱唱バラード。漢の哀愁が光ります。
#6 "Stossgebet" は重厚なスローチューンで、宗教的な面が色濃く出ています。とくにAメロのラテン語パートは静かなオルガンのバッキングもあって教会で独り切々と歌っているような映像が浮かびます。特に2分30秒あたりからの熱量こもった盛り上がりがいいですね。PVはライヴ映像中心ですが、Manowarの "Warriors Of The World United" を思い起こさせます。曲調も映像も。
#7 "Nightside of Siberia" はロシア民謡的なリフが洗脳級のインパクトを残すミドルチューン。Bメロ部分のハイトーンも強烈ですし、タイトル連呼系のサビもシンプルながら強烈です。
タイトルチューンの#8 "The Sacrament of Sin" は本作唯一の疾走チューン。ミドルチューンもいいですが、やはりこういう疾走曲があると燃えますね。サビの熱気と哀愁を同時に浴びるような高揚感も素晴らしい。アルバム後半にこういうキラーチューンを入れてくる流れもナイス。ただ、曲は最高なのにPVがクソダサで、まあでもこれがヘヴィメタルというものなのです。
荘厳なコーラスで幕を開ける#9 "Venom of Venus" はワンバスとスネアでズンタンズンタンと進行するアップテンポ曲。やはり精神を高揚させる要素満載で、戦意が沸いてきますね。後半、ちょっとした溜めの後に大サビが来るかと思わせといてソロパートに入る流れはちょっと意表を突かれましたがこういうのもいいですね。
#10 "Nighttime Rebel" はシンフォニック要素を軽く施したミドルチューン。曲そのものもやはり強力ですね。ソロパートもドラマティックで好き。
ラストの#11 "Fist by Fist (Sacralize or Strike)" は1曲目と似たようなノリの3連符のアップテンポ曲。ラストにこんな強力なキラーチューンを持ってくるところに、聴き手を最後まで引き付けようとする心意気を感じます。
コンセプトが明確で、リフやメロディにも説得力があり、「これが俺たちのスタイルだ」と言わんばかりの迷いのなさ。安定感のあるパワーに絶対的な信頼のある、正統派メタル好きにはぜひ聴いてほしいバンドです。
2023.11.20 (Mon)

Power Trip / Nightmare Logic (2017.02.24)
1. Soul Sacrifice [4:11]
2. Executioner's Tax (Swing of the Axe) [3:45]
3. Firing Squad [3:18]
4. Nightmare Logic [4:22]
5. Waiting Around to Die [4:23]
6. Ruination [3:10]
7. If Not Us Then Who [4:10]
8. Crucifixation [5:21]
total 32:36
ラリー・ゲイル (vo)
ブレイク・アイバニーズ (g)
ニック・スチュワート (g)
クリス・ウェッツェル (b)
クリス・アルシュ (dr)
アメリカ・テキサス州ダラス出身のクロスオーバースラッシュ、Power Tripが2017年にリリースした2ndアルバムです。
結成2008年、1stアルバムが2013年と比較的新しいバンドですが、その実は野性味あふれるストロングなスラッシュ/ハードコア。80年代の薫りが濃厚に漂います。2ビートの疾走感。ざらついたギターによる刻み。凶悪な音像。振り絞るような気迫を感じる怒号ヴォーカルも熱い。速いパートのかっこよさは言わずもがな、ミドル~スローパートにおけるノリの生み出し方も一級品です。
80年代の、怒りと鬱屈をため込んだ若者たちによる危険な音楽。地下のライヴハウスに立ち込める暴力的な空気。それが数十年の時を経て今、ここに再度示されます。多彩な要素が溶け込み引き出しは多いですが何も難しいことはない。シンプルにかっこよく、そして治安の悪い音楽性です。
#1 "Soul Sacrifice" はイントロこそじっとりスローですが一気に加速してヴォーカルパートへ。完全に80年代スラッシュの世界観で、メタルという音楽が危険で尖ってたあの頃の空気感そのまま。切り裂くようなギターソロも短いながら効果的。
#2 "Executioner's Tax" はミドルテンポでズンズンと突き進む曲。規則正しい8分音符の刻みがいいですね。イントロが少々長めですが、リフのパターンを細かく変えており飽きずに聴けます。熱量のこもったむさ苦しいヴォーカル。サビ部分の野郎コーラス。高い衝動性でありながらコントロールもばっちりで、良く練られた1曲です。
#3 "Firing Squad" は全編通して大変なことになってる暴走疾走チューン。中盤ちょっとクールダウンしますが、再度加速してソロパートへ。終わり方も潔すぎる。重い!速い!かっこいい!メタルなんてそれでいいんです。
まるで3曲目の続きのように自然なスタートの#4 "Nightmare Logic"。アップテンポですがヴォーカルを含めたすべての楽器が凶悪で殺気が漲ってます。まあこれはどの曲にも言えますが。そしてこのテンポだからこそ、ギターの重い刻みが際立ってます。中盤からスローに落とすんですが、ここのパートもいいですね。
#5 "Waiting Around to Die" は重く野蛮な疾走チューン。1stアルバムの頃のMetallicaにウェイトを付けたような感じです。リフや曲の展開が巧みで、聴き手を衝動に乗せることに特化しています。
#6 "Ruination" は90年代以降のヘヴィ音楽によくあるうねるようなノリのスローなイントロから一気にテンポを上げ、直線的に疾走。そのまま終盤まで一気に駆け抜けます。
#7 "If Not Us Then Who" は野性味あふれるアップテンポ曲。相変わらず凶悪ながらノリが良くて、聴いてて楽しいですね。中盤、2分21秒からの刻みパートもかっこよすぎます。この小刻みなギターに、あえて重いビートを当てているところもいいですね。
ラストの#8 "Crucifixation" も刻みまくりので80年代スタイルの疾走スラッシュチューン。殺気と緊張感を振りまきながら走り続け、中盤でいったんスローダウン。このスローパートもとにかくリフが刻みまくってます。後半で再度加速。幾度かのギターソロを挟みながら衝動的な中にもある種のドラマ性を感じます。
ヘヴィメタル界隈の高齢化が深刻化しつつ昨今ですが(やる方も聴く方も)、メタルとは本来反抗的で血の気の多い若者が生み出した音楽。その原点である衝動性を強く感じる作品です。
なおヴォーカルのライリー・ゲイルは2020年に34歳の若さで亡くなっており、スタジオアルバムとしては本作が彼の遺作となりました。今後どうなるのかはわかりませんが、ここで終わってしまうにはあまりにも惜しすぎるバンドです。
2023.11.16 (Thu)

Liturgy / 93696 (2023.03.24)
disc 1
Sovereignity(主権)
1. Daily Bread [2:19]
2. Djannaration [8:20]
3. Caela [4:54]
4. Angel of Sovereignty [2:07]
5. Haelegen II [9:00]
Hierarchy(階層)
6. Before I Knew the Truth [4:27]
7. Angel of Hierarchy [3:14]
8. Red Crown II [1:51]
total 36:38
disc 2
Emancipation(解放)
1. Angel of Emancipation [2:47]
2. Ananon [5:09]
3. 93696 [14:52]
Individuation(個別化)
4. Haelegen II (Reprise) [1:36]
5. Angel of Individuation [5:46]
6. Antigone II [14:09]
7. Immortal Life II [1:45]
-bonus track-
8. संसार (Sansar) [2:46]
total 48:45
ラヴェナ・ハント・ヘンドリクス (vo, g)
マリオ・ミロン (g)
ティア・ヴィンセント・クラーク (b)
レオ・ディドゥコフスキー (dr)
アメリカ・ニューヨーク出身のエクスペリメンタル(超越的)・ブラックメタル、Liturgyが2023年にリリースした6thアルバムです。
CD2枚組で合計1時間25分に及ぶ超大作。全体で4部構成になっており、「Sovereignity(主権)」「Hierarchy(階層)」「Emancipation(解放)」「Individuation(個別化)」というセクションに分かれています。
音楽面では過去の延長線上にありますが、その世界観は過去最高の広がりを見せています。ブラックメタル、オペラ、ジャズ、オーケストラ等々が混然一体となって濁流の如く迫りくる祝福の狂音。総てを焼き尽くすかの如き光差すメロディ。悲鳴と不協和音。調和と崩壊を果てしなく繰り返した末に見えてくる終末的天国。特に凄まじいのがドラム。あまりにも獰猛なグルーヴを叩き出しており、それに呼応するようにバンド全体が、エゼキエル書に登場する『神の戦車(メルカバ)』のような異形のインパクトがあります。
disc 1の#1 "Daily Bread" はハミングのような独唱と持続音、やがてピアノとコーラスが入ってくる教会音楽のようなイントロ。
#2 "Djennaration" はさっそくトレモロとブラストによるファンファーレのような暴力的多幸性による洗礼。やがて悲鳴のようなヴォーカルが入り、バンドが一体となってあらゆるものを光で焼き尽くす勢いで進行していきます。やがてその轟音の中にピアノが混じり、2分45秒目あたりで電子ビートにチェンジ。バックで冒頭のリフがストリングスで流れている点にテーマの一貫性を感じます。
3分16秒あたりでブラストの奔流がとめどなく溢れ、壮麗なのか不気味なのかよくわかんないコーラス。CDの音飛びのような演出も効果的。4分51秒からの轟音に溶け込む抒情的メロディも浸れます。6分を過ぎたあたりで冒頭のテーマが今度はコーラスで登場。ストリングスも楽曲を劇的に彩っており、もうこれがクライマックスなのではという盛り上がりを見せます。
#3 "Caela" はインド音階風のイントロで幕開け。そのまま3連ブラストに突入し空間を軋ませるようなトレモロが炸裂。2分15秒あたりでハードロック的なダイナミックなリフが登場し、笛の音と絶叫ヴォーカルによる緊張感との対比が印象的。ラスト20秒でさらにカオティックハードコアのような展開となりそのまま唐突に幕切れとなります。
#4 "Angel of Sovereignty" は清らかなコーラス。楽器は無し。コーラスの層が次第に厚みを増し、タイミングを微妙にずらしているところなどは芸が細かいなと思いました。初期Queenの世界観にちょっと近い。
#5 "Haelegen II" は重々しいピアノとギターノイズ。演奏は激しいながらテンポ自体はゆったり目をキープしています。そして音飛び演出を皮切りに2分前後からフリージャズ的なカオティック空間が展開されますがそこからすっきりした流れになり、粒の細かいブラストに呟くようなヴォーカル。打ち付けるようなビートと音飛びの後、轟音ブラストに乗っかる祈りのような呟き声。このパートいいですね。
5分40秒あたりでまた展開が変わり、異形にして神聖な轟音パート。終盤はカオティックながら劇的で宗教的なパートで締めとなります。
#6 "Before I Knew the Truth" は規則正しい四つ打ちのバスドラに執拗なトレモロとコーラス。やがて悲鳴ヴォーカルが入り1分ほどで急上昇。以降ゆったりしたテンポで安定飛行に入りますが2分10秒あたりから徐々にカオティックになっていき、均衡と不均衡を繰り返しながら最終的にはなんか良い感じのピアノと金属質な打楽器で締めとなります。
#7 "Angel of Hierarchy" はキーボードによるアンビエントな曲。
#8 "Red Crown II" は笛の2重奏で和音が調和したり干渉し合ったりしながらの短いトラック。
disc 2の#1 "Angel of Emancipation" は電子ピアノによる静かで穏やかな曲。中盤から電子音が重なり始め、少しカオスな雰囲気になります。
#2 "Ananon" はカオティックハードコアのような衝動性とトレモロやコーラスによる神聖さを併せ持ち、聖なる光で総てを焼き飛ばして浄化するような曲。重く打ち付けるようなグルーヴが基本ですがブラストで突発的に走ったりと振れ幅が大きい。
タイトル曲の#3 "93696" は15分近い大曲。トライバルなタムの連打と軋むようなトレモロで幕を開け、ダイナミックなリフと共に重厚に進みます。この序盤のパートはハードコアと暗黒ヘヴィロック…ConvergeとToolが混ざったような雰囲気です。
3分15秒で一瞬のブレイクの後トレモロパートに移行。緊張感を極限まで高めた後、4分33秒目である意味Liturgy流のブレイクダウンとも言えそうなダイナミックなリフが繰り出されます。
8分ちょうどあたりで引き延ばし系のドゥーミーなリフに変化。メロウな和音も織り交ぜつつ、どちらかと言えば豪快な雰囲気で進行します。やがてカオティックな緊張感が限界まで引き上げられ、11分12秒あたりで重々しいベースパート。鋭利な掻き鳴らしリフやストリングスが入ってきて、いよいよ曲も終盤に向けて荘厳な盛り上がりを見せます。このストリングスのフレーズが美しく、激烈な嵐を意にも介さず可憐に咲く花畑のような非現実性があります。
#4 "Haelegen II (Reprise)" はアコースティックギターの爪弾きによるちょっとダークで湿ったインスト曲。
#5 "Angel of Individuation" はストリングス主体のクラシカルなインスト曲。品のある雰囲気ですが悲壮感のようなものも漂っています。次に続くアルバム全体のハイライトへのちょっと長めのイントロといった感じでしょうか。
そして5曲目のストリングスから間を置かずに始まる#6 "Antigone II" こそ本作のハイライト。こちらも14分に及ぶ大曲で、まずはダイナミックなリフと不気味コーラスで幕開け。高音弦が軋みを上げつつも雄大な雰囲気です。2分ジャストで切ないトレモロと3連ブラストによる激烈パート。そこから一度静かになり、低く唸るトレモロとともに悲鳴ヴォーカルが入ってきます。演奏は激烈ですが基本3連符なのでノリは良いですね。
5分52秒から変則的なアルペジオパート。やがて清浄なコーラスと共に硬質で破壊力の高いカオティックなリフ。カオス度は高まり続け、荒ぶり始めるドラム。10分目あたりで冒頭のリフが一瞬だけ登場するところとか芸が細かいですね。そしてここから怒涛の精神浄化パート。特にラスト2分の、この世の穢れを白き光で焼き尽くすかの如き、人知を超えた激音の嵐。神の愛の火に焼かれ、私たちはみな等しく祝福を受けるのです。
#7 "Immortal Life II" は6曲目の祝福の狂音により焼き尽くされた世界を再生するかのような、穏やかなコーラスによるアウトロ。
#8 "संसार (Sansar) " は日本盤ボートラ。タイトルは「世界」という意味です。穏やかな弾き語り曲で、ラヴェナ嬢もここでは極ノーマルな歌声を披露。電子音で頻繁に変調したり歪んだりしてますが、この穏やかさと不安定さのバランスこそがいいですね。
まあラヴェナ嬢の哲学や宗教観など難しいことは正直よくわかりません。しかし純粋に音楽作品としても、果てしない破壊と再生。浄化と祝福。静けさと激音の果てにカタルシスを得ることができる傑作です。
2023.11.14 (Tue)

Suotana / Ounas I (2023.03.17)
1. Lake Ounas (The Beginning) [2:41]
2. Through the Mammoth Valley [4:14]
3. The Ancient [6:50]
4. Legacy [8:07]
5. River Ounas [13:16]
6. Land of the Dead (Summoning cover) [6:15]
total 41:20
トゥオモ・マルティネン (vo)
ヴィレ・ラウティオ (g)
パシ・ポルターンコルヴァ (g)
トミ・ネイトラ (key)
ラウリ・アラルイッカ (b)
ラウリ・ユオッペリ (dr)
フィンランドのメロディック・デスメタル・バンドSuotanaが、前作から5年ぶりとなる2023年にリリースした3rdアルバムです。
メロデスとメロブラのちょうど境界線上に位置しているような音楽性で、いかにも北国のメタルバンドらしい身を切るような寒々しさ。故郷の先輩Childlen of Bodom, Nother, Kalmahの後継的存在ともいえる、高いセンスを持ったバンドです。メロディの哀愁度もレベル高いですし、キーボードの使い方が上手い。ギター隊に混ざっての抒情的なリフレインや、静寂パートでの淡く冷たい雰囲気。決して主張が強いわけではありませんがこのバンドに欠かせない要素となっています。
#1 "Lake Ounas" は口琴のような音に始まり、壮麗なオーケストレーションによる映画音楽のようなイントロ。
#2 "Through the Mammoth Valley" はキレのいいメロウなイントロからブラストビートと共にヴォーカルがイン。ハイピッチのシャウトからストロングなグロウルまで幅広く使い分けています。基本的にはアップテンポでブラストはあくまでアクセント的位置づけなんですが、哀愁メロディがふんだんにちりばめられたドラマ性あふれる楽曲です。ソロパート後の、キーボードによる冷たい静寂パートもいいですね。
#3 "The Ancient" は冷たく静かなキーボードからいきなりのブラスト。単音リフとツーバス連打。バックのキーボードもいいですね。軽快なアップテンポからヴォーカルパートに入ります。冷たく透明感のあるキーボードも効果的。ソロパートを始め、時折3拍子に変化するパートもありますが、この拍子チェンジも違和感なく自然に行われておりなおかつ90年代メロデス由来のリフも入ってて抒情度高し。
#4 "Legacy" はいかにもメロスピ要素の濃いメロディアスな疾走曲。2ビートとブラストビートを織り交ぜ、寒々しいメロディを振りまき、冷たくも美しい情景を描き出します。中盤の、ツーバス連打のアップテンポパートにおけるリードギターの執拗なリフレインも中毒性が高いですね。そのままソロパートに移行。ギターとキーボードのバトルやユニゾンも堪能できます。ラストは勇壮な野郎コーラスも登場。ライヴで盛り上がりそうです。
#5 "River Ounas" は13分に及ぶ大曲。川のせせらぎと壮大なクワイアで幕開け。ツーバス連打のアップテンポとブラストを切り替えながら勇壮に進行。キーボードもいつもの冷え冷えサウンドではなくオーケストラやクワイアでシンフォニックな雰囲気です。3分05秒目からの哀愁リードギターがまた良いのですよ。
ひとしきり走った後、4分あたりからキーボードのソロタイム。レトロで厳粛な雰囲気です。やがてバンドの音が戻ってきて、このキーボードのリフを今度はギターが引き継ぎ、完全なるメタルパートへ移行します。
8分15秒目で再度あの哀愁ギターが登場し、いよいよ終盤に向かって劇的な盛り上がりを見せます。
#6 "Land of the Dead" はオーストリアのブラックメタル、Summoningのカヴァー。原曲は「Oath Bound」(2006年 6th) 収録。5曲目がダム湖建設により生態系が激変した故郷の川についての曲なので、ここでこの曲が来るのも必然的な流れなのでしょう。内容としましては、イントロから早速メロディが強い&くさい。ヴォーカルパートのトレモロ。所々に挟み込まれる哀愁リードなど全編クサメロ祭りと言っても過言ではないでしょう。
これぞ北欧メタルといった哀愁メロディに、攻撃性やドラマ性もたっぷり。冷たくも美しい、透明感のある作品です。
2023.11.12 (Sun)

Enslaved / Heimdal (2023.03.03)
1. Behind the Mirror [6:20]
2. Congelia [8:01]
3. Forest Dweller [5:56]
4. Kingdom [5:52]
5. The Eternal Sea [7:25]
6. Caravan to the Outer Worlds [6:44]
7. Gangandi (bonus track) [7:11]
8. Heimdal [8:06]
total 55:31
グリュートレ・チェルソン (vo, b)
イヴァー・ビョルンソン (g)
アイス・デイル (g)
ホーコン・ヴィンイェ (key, vo)
イーヴェル・サンディ (dr)
ノルウェーのブラックメタルバンド、Enslavedが2023年にリリースした16枚目のアルバムです。アルバムタイトルの「ヘイムダル」は北欧神話に登場する神の名前です。
ブラックメタル第1世代バンドの1つで、ヴァイキングや北欧神話をテーマに曲を作り続けている軸のぶれないバンドでもあります。初期のころからキーボードを大々的に取り入れた壮大でシンフォニックなブラックメタルをやっていましたが、よりプログレッシヴな方向性を強め、回を増すごとにその音楽性は深まり、その独創性は他の追随を許さないレベルにまで来ています。
#1 "Behind the Mirror" は重々しい角笛の音で幕を開け、ゆったりとしたリフから爽やかなクリーンヴォーカルがイン。キーボードによるインストパートを経て最初のリフに戻り、今度はスクリームが入ってきます。3:30あたりからヘヴィながらダンサンブルなリフと浮遊感あるキーボード。疾走感のある曲ではありませんが、複雑にしてドラマティックな展開です。
#2 "Congelia" は走るドラムといかにもブラックメタル的な禍々しい掻き鳴らしリフで幕を開ける疾走曲。ドラムはひたすら単調に拍を刻み続け、リフの層はますます分厚くなったところでヴォーカルパートへ。闇夜の嵐を突き進むようなパートを経て3:04あたりから冷たくも印象的なメロディが入ってきます。それが終わると再び暗黒疾走パートへ。8分ほどの曲ですがそのほとんどが疾走パートという凄まじさです。
#3 "Forest Dweller" はゆったりしたテンポに乗せて、中近東風とも何とも言えない不思議なメロディで幕開け。アコースティックギターのストロークをバックに温かみのあるクリーンヴォーカルが入ってきます。そして2:20あたりからブラックメタルに変貌。山の天気みたいに急激に展開が変わります。ハモンドのソロまで出てくる変幻自在振り。後半で冒頭のゆったりしたパートに戻り、しかし冒頭とは違ったヴォーカルラインでディープな雰囲気を演出します。
#4 "Kingdom" はダンサンブルでノリのいいイントロ、かっこいいギターソロで幕開け。ヴォーカルパートトに入ると一旦テンポダウンしますがまたすぐ加速。掻き鳴らしギターに80年代風の電子音という組み合わせがなぜか似合っており普通にかっこよく聴こえるのはどういうセンスなのか。3:05からの呪文の詠唱のようなゆったりしたヴォーカルと、ドラムを含めひたすら荒ぶりまくりのバッキングの対比も印象的。
#5 "The Eternal Sea" はヘヴィなベースラインと、同じくずっしり重いドラムで幕開け。3連符のミドルチューンで伸びやかなクリーンヴォーカルが響きます。途中のキーボードソロもPink Floyd風でいいですね。そして4:57から突然の疾走。ここだけスラッシュメタルみたいになりますが、5:40あたりで元のテンポに戻り、Enslavedならではの不思議な響きのコーラスが聴けます。
#6 "Caravans to the Outer Worlds" は空間を包み込むようなふわりとしたイントロから突然の加速&緊迫したギターソロとなり、そのままヴォーカルパートに入ります。ブラストビートまで登場して本作一番の攻撃性を見せますが、その上に乗るのは伸びやかなクリーンヴォーカル。こういうのもいいですね。テクニカルなギターソロを挟んで勢いは止まらず爆走。4分ジャストでふっと静まり返りギターのアルペジオと風の音。重々しいナレーションが入り、そして一気にヘヴィな雰囲気となります。重いのにどこか浮遊感があるという不思議なパートを経てプリミティヴなビートのリピートで締めとなります。
#7 "Gangandi" は日本盤ボートラ。重厚な雰囲気ですがドラムが躍動的でいいですね。1:10秒で一瞬疾走し、本作一番のドスの効いたグロウルが炸裂。元のテンポに戻ります。ギターのトレモロによる独奏があり、今度はブラストビートで疾走。禍々しい要素もありますが、多彩な展開はさすがです。
#8 "Heimdal" はゆったり系の、しかし重厚なリフ。ダークな雰囲気ですが温かみのようなものも感じます。ソロパートを経て2:58からアンビエント風の静寂パートへ。そしてキレのいいリフによるアップテンポのパート。ひたすら黙々とリフを刻み続けていますが、やがてヴォーカルが入ってきます。バッキングの70年代プログレみたいなキーボードもいいですね。
ストレートなブラックメタルから70年代プログレ、雄大で温かいパートから鋭利で攻撃的なパート、複雑なアンサンブルなど幅広い要素を内包しており、ダイナミックで大地と海に根差した奥深い作品です。
2023.11.10 (Fri)

In Flames / Foregone (2023.02.10)
1. The Beginning of All Things That Will End [2:13]
2. State of Slow Decay [3:58]
3. Meet Your Maker [3:57]
4. Bleeding Out [4:01]
5. Foregone, Pt. 1 [3:24]
6. Foregone, Pt. 2 [4:30]
7. Pure Light of Mind [4:26]
8. The Great Deceiver [3:45]
9. In the Dark [4:17]
10. A Dialogue in B-flat minor [4:29]
11. Cynosure [4:06]
12. End the Transmission [3:42]
total 46:46
アンダース・フリーデン (vo)
ビョーン・イェロッテ (g)
クリス・ブロデリック (g)
ブライス・ポール (b)
ターナー・ウェイン (dr)
スウェーデンのメロディック・デスメタル・バンド、In Flamesが前作から4年ぶりとなる2023年にリリースした14作目のアルバムです。ニクラス・エンゲリン (g) の後任として、元Megadethとして知られるクリス・ブロデリックが加入しています。この人事異動により、メンバー5人中3人がアメリカ人となりました。
さて本作は、バンド側が「原点に還った」と自負するアルバムです。ここ20年ぐらい迷走を続けていた彼らがついに己を見つめなおしたのか。結論から言うと「そういう曲もある」。相変わらずのオルタナ路線も結構あります。ただし「原点回帰曲」のインパクトも強く、あの頃の、湿った憂いと悲しみを時に激しく時に繊細に紡ぎあげるメロデス曲が復活しているのも事実。あの北欧民謡調のメロディ。確かにここまでやったのは「Colony」(1999年 4th) 以来かもしれません。
まあでも「Lunar Strain」(1994年 1st) の再来みたいな期待はしていません。なぜなら当時のメンバーは今や誰1人いないから。そう、このバンドもまた「テセウスの船」。現在の最古参メンバーはアンダースとビョーンですが、この2人は「The Jester Race」(1996年 2nd) からの加入。過度な期待は抱かず、90年代後半ごろの作風が踏襲されていればそれでよしといった感じで聴きました。
#1 "The Beginning of All Things That Will End" はアコースティックギターによる静かなイントロ。初期の作品には確かにこうしたアコギの小曲やパートがよく入っていた気がします。フォーク調なのも嬉しいですね。期待が高まってきます。
#2 "State of Slow Decay" はイントロこそヘヴィでいかつい感じですが、At the Gates系イエテボリスタイルの疾走メロデスチューン。不穏でダークなBメロを経てソロパート、そしてサビという流れ。サビ部分はスピードを落としてクリーンで聴かせるタイプですが、さすがのエモーションです。
#3 "Meet Your Maker" は全体的にヘヴィなリフが支配的ですが、細かいテンポチェンジによる起伏の付け方や、厳つい中にも鮮やかなメロディが光る曲。「Clayman」(2000 5th) あたりの作風を今風にアップデートしたような感じです。ソロパートに入ると2ビートで疾走、続くエモーショナルなパートもいいですね。
#4 "Bleeding Out" はヘヴィな刻みによる3拍子のスローチューン。初期のアルバムには名曲 "Moonshield" を始め必ず1曲ワルツ曲がありました。こちらはヘヴィ感重視でさすがにあの頃の抒情性はないですね。リフのヘヴィですが、歌メロの浮遊感で重くなりすぎない工夫はしています。あとソロパートがやたらテクニカルなのに驚きました。弾いてるのは新加入のクリスかな?
タイトル曲の#5 "Foregone, Pt. 1" はいきなりブラストで幕開け。この疾走感、ツインがハモるリフ。これこそ「あの頃のIn Flames」です! サビ部分もクリーンじゃなくてきちんとスクリームしている点もグッド。もし「Colony」の次に出たアルバムにこの曲が入っていたらわたくし狂喜乱舞していたことでしょう。
#6 "Foregone, Pt. 2" は4曲目と同じく3拍子のスローチューン。多少今風の味付け&クリーンパートもありますががこれはかの "Moonshield" 系抒情ワルツメロデスです!ヘヴィなリフによる物悲しげなハーモニーなんかはまさに「あの頃のIn Flames」(2回目) 。ソロパートも短いながら煽情力の高いメロディを聴かせます。
アコースティックギターで幕を開け、壮大なイントロへと続く#7 "Pure Light of Mind"。ファルセットを使いながら気だるげな雰囲気で歌うヴォーカルが良いですね。ほぼほぼクリーンヴォーカルによる、王道のバラードといったところでしょうか。ヴォーカルとギターの同時進行により生まれるハーモニーがエモい。
#8 "The Great Deceiver" は開始0秒から早速疾走。しかしヴォーカルパートに入るとじっくりとテンポを落とします。重量感あるテンポとアンダースのグロウルは迫力あっていいですね。序盤で勢いを溜めておいて、サビで一気に開放。この疾走感は爽やかさすら感じます。2コーラス目からはさらにギアを上げ、攻撃的ながらドラマティックな展開。90年代メロデスではありませんが非常にかっこいい曲です。
#9 "In the Dark" はタイトル通りダークなヘヴィチューン。割と最近の曲調ですね。アンダースの、グロウルからハイピッチまで幅広くこなす表現力はさすが。そして中盤、突然のアコギ静寂パート。ここから一気にメロウなサビ。2曲目もそうでしたが、Bメロとサビの間にちょっとした何かを入れるのも本作の特徴かな。
#10 "A Dialogue in B-flat minor" はイントロの感じが「Clayman」っぽいミドルチューンで、グルーヴ感のあるヘヴィなリフが特徴。それにメロディアスなミュートリフで味付けしています。
#11 "Cynosure" もダークなスローチューン。ヴォーカルパート入り前のベースラインはかっこいいですし、そのフレーズを引き継ぐAメロ部分や、ソロパートのバッキングのリフも3拍子×4+4拍子という変則的なリズムを取っているなど細かいところに工夫がみられます。
ラストの#12 "End the Transmission" もヘヴィなスローチューン。ちょっと似たような曲調が続きすぎじゃないですかね。スクリームにおけるアンダースの表現力やコントロールはさすが。これがラストでいいのだろうかって感じの地味な曲ですが。
9曲目以降は蛇足だなと感じました。8曲目で終わっといて、最後になんかいい感じのアコギのアウトロを入れた方がより「原点回帰感」が強まっていたのでは。まあでも20年以上封印していた北欧民謡要素を復活させたのは大きな進歩であり前進だと思います。
2023.11.08 (Wed)

Twilight Force / At the Heart of Wintervale (2023.01.20)
1. Twilight Force [4:12]
2. At the Heart of Wintervale [4:51]
3. Dragonborn [4:00]
4. Highlands of the Elder Dragon [10:33]
5. Skyknights of Aldaria [5:14]
6. A Familiar Memory [1:19]
7. Sunlight Knight [4:29]
8. The Last Crystal Bearer [10:21]
total 44:52
アリオン (vo)
リンド (g)
エレンディール (g)
ブラックヴァルト (key)
ボルン (b)
ディアッシュ (dr)
スウェーデン出身のパワーメタル戦士、Twilight Forceが前作から4年ぶりとなる2023年にリリースした4thアルバムです。
2nd, 3rdと70分越えの大作が続きましたが、本作はトータル約45分とコンパクトな内容です。4~5分台のストレートなメタル曲と10分越えの大曲2曲という構成で、サクッと聴きやすいし充実感もある。やはりこのぐらいがベストですね。
ジャケットにドラゴンがどーーんというもはや頼もしさすら感じる軸のぶれなさ。クサくて勇壮でファンタジックな作風も相変わらず。過去の作品で全開だったテーマパーク要素は薄れ(あれ大好きだったんですが)、よりオーソドックスなファンタジー路線に舵を切った感があります。しかしやはりこの全体にみなぎる明るくポジティブな要素は圧倒的説得力がありますね。アリオン氏の豊かで伸びやかなヴォーカルも素晴らしい。即効性の高いクサメロ疾走チューンからスケールの大きなエピックメタルまで曲の幅も広く、映画1本分の充実感があります。
バンド名を冠した#1 "Twilight Force" は今後彼らのアンセムになるであろうことが確約された激メロ疾走チューン。イントロから早速引き込まれます。ヴォーカルパートに入ると少しおとなしくなりますが、そこから徐々に盛り上がりを見せ、サビでの勇壮な盛り上がり。パワーがありますね。テクニカルなソロパートの後に、サビのメロディをマイナー調に変化させたフレーズを情感豊かに紡ぎだす場面など、短い中にも高いドラマ性を感じます。劇的なエンディングもグッド。
タイトル曲の#2 "At the Heart of Wintervale" も爽やかに突き抜けるようなイントロが早速強い疾走チューン。サビの爆発力と高揚感が良いですね。ソロパートがテクニカルにして朗らか。そして途中で転調してダイナミックにもありあがる展開も好き。
軽やかなヴァイオリンで幕を開ける#3 "Dragonborn" は、フォーキーな要素漂うミドルチューン。イントロのリフレインが、ヴォーカルパートに入ってからもバッキングを支えているところなど芸が細かいですね。全体的に牧歌的な雰囲気ですが、サビでの壮大さはさすが。
#4 "Highlands of the Elder Dragon" は10分越えの大曲。荘厳なイントロが1分ほど流れ、ヴォーカルパートに入ると軽快なアップテンポから2ビートによる疾走。荘厳なクワイアを挟んでのクサメロ全開のサビなどもう序盤から聴く者を取り込むパワーがあります。3:43あたりからピアノとストリングスによる穏やかなパート。展開が多彩で、10分という時間があっという間に過ぎていきます。
#5 "Skyknights of Aldaria" はブラス系のオーケストラで幕を開ける勇壮なミドルチューン。しかしサビでは3連符ブラストが瀑布の如く降り注ぐ、パワーのある曲です。ブラス楽器、クワイアそしてバンドの音が劇的なドラマ性を演出しています。
#6 "A Familiar Memory" は笛とアコースティックギターによる朗らかなインスト&ハミング曲。どっかで聴いたようなメロディですね。
#7 "Sunlight Knight" は正統派の疾走チューンで、勇壮で緊迫感ある雰囲気。しかし細かいところで民謡調のメロディからちょっとダークな雰囲気、まじでゲームのオープニング画面にありそうな能天気なラテン調パートまで、詰め込めるだけ詰め込んだ感のあるファンタジックな世界観です。そして無駄に壮大なラスト。日本のRPGゲームをもとにしたであろうPVも遊び心があってグッド。
#8 "The Last Crystal Bearer" は今作2度目となる10分越えの大曲。さすがの壮大さでエピックメタル的要素もあり、4曲目同様ダレることなく聴かせます。歌詞の面ではバンドの中心人物ブラックヴァルト氏の過去…好奇心を抑えきれず禁断の秘儀に手を染めたブラックヴァルト氏がその咎により魔術師ギルドを追放される過程が描かれます。普通ならそこで復讐者となるところですが、ブラックヴァルト氏はそうではありません。まあ「お前ら見とけよ、今よりもっと強なって帰ってくるけんのぉ」みたいな描写はありますが、やがて5人の仲間たち(トワイライト・フォース)と出会い、予言に記された災いからこの国を救うため旅に出る様子が描かれます。闇落ち回避。仲間って大事ですね。
コンパクトながら壮大という相反する要素を見事に両立させた傑作です。コンセプトが明快で、入りやすい中にもディープな壮大さや物語性もある。「物語を歌うのがメタル」というなら、今一番勢いがあって成長性を感じさせるのはこのバンドだと思います。